需要サイドから見た2020年の『発電市場の動向はどのように変わっていくのでしょうか。また、なぜ需要サイドから発電市場を見る必要があるのか、も考えていきたいと思います。
なぜ需要サイドが重要なのか
電力市場のフロンティアとして提唱され、多くの企業が注目したスマートグリッドは、本来文字通り電力会社のグリッドをスマート化するための技術です。にもかかわらずこの分野にかかわっている企業が関心を寄せているほとんどの技術や事業は需要サイドの市場にあります。
たとえば、分散電源・電熱併給システム・HEMS・BEMSなどの制御システム・電気自動車・スマートハウス・スマートシティなどの技術が挙げられます。
コンバインドサイクルや広域の送電網運営など発電側、送配電側にも革新的な技術がありますが、バラエティさでは需要サイドのほうがはるかに上になります。これはエネルギー分野でダウンサイジングが進んでいる事の表れともいえるでしょう。
また、技術革新と同じかそれ以上に重要となるのが「電力システムにおける需要サイドの位置づけが変わっている事」「電力システム改革によって需要サイドに新たな機能が必要になる事」です。
送配電運営に参加する需要家
まず、「電力システムにおける需要サイドの位置づけが変わっていること」について説明します。
従来、需要家とは電力会社から電力の供給を受け電力を消費する人や企業のことを指していました。
しかし、今では需要家は単に電力を消費するだけの存在ではありません。例えば、スマートハウスでは燃料電池のコジェネレーションと太陽電池を備えて発電を行います。
結果的に、発電量が電力消費量を上回ることも珍しくありません。工場でもコジェネレーションの自家発電を備えているところは少なくありません。最近では、発電するだけではなく、エネルギーマネジメントシステムを備えて、電力会社の専売だった需要制御や電力の需給調整も行うようになってきました。
需要家と、電力会社との関係も変化し
需要家が電力を消費するだけだった時は、緩急はあっても、電気の流れは電力会社から需要家への一方通行でした。
しかし、需要サイドが発電機能を持つと、電気が余れば系統側が受け入れないといけません。
その場合には、電力会社から需要家に電気の代金を支払います。こうして、かつて一方方向だった電気の資金の流れは双方向へ変わることになりました。
新興国でスマートグリッドの実証などを行う際、日本に比べて逆潮流(電力が需要家側から電力会社側へ流れる事)が問題となるため、一方向から双方向への変化は送配電網の進化と言うことが出来ます。
電力会社が需要家から買い取った電力は、スマート化された送配電網の中で調整され他の需要家に送られるので、需要家は送配電網全体の需給バランスに貢献していることになります。
また、需要家の側で整備するエネルギーマネジメントシステムは、需要家が需給調整の一部を担うことで送配電網の負担を下げている、ととらえることが出来ます。
これまで単なる電気の使用者だった需要家が、送配電運営に参加するようになっているのです。こういった流れは、公的なインフラ化する送配電網の運営の民主化が進んでいるようにも見えます。
次世代型ESPの登場
次に「電力システム改革によって需要サイドに新たな機能が必要になる事」と言う点について説明しましょう。
これまで需要家は地域で独占的に電力を供給する電力会社から電気を買っていればよかったのですが、電力自由化の時代になると、市場では様々な種類、価格の電力が販売されるようになるため、そうはいきません。
需要家は市場の電力をできるだけ有利で確実に、あるいは再生可能エネルギー率が高いなど自分の好みに合ったように調達するために、市場にある電力の商品を適切に選択しなくてはならなくなります。
さらに、分散電源やエネルギーマネジメントシステムが加わると、何が最適な電力の使い方なのか分かりにくくなります。
大企業のように、設備管理の専門家がいる場合はいいですが、電力や市場の知識がない一般家庭で最適な電気の使い方を見出すのは困難でしょう。
こうしたことを考えると、系統上と市場にある電力商品を需要家の好みに合わせて最適に組み合わせるサービスへのニーズが生まれます。事業のポジションとしては、2000年ごろアメリカで注目されていたESP(Energy Service Provider)と同じですが、これから生まれる需要家サービスとかつてのESPとはかなりイメージが異なります。
かつてのESPは顧客の電力使用状況に合わせて最も安価な電力を調達することが主な業務目的でした。
しかし、これから生まれる需要サービスは、飛躍的に発展したITを駆使し、電気を調達するだけでなく最適な需要管理も行い、ガスや再生可能エネルギーも含め最も効率的で低炭素な環境を提供するようになります。場合によっては以下に示すように、他の事業者と協力して需要家の生活を支えるようにもなります。
例えばこうした次世代のESPにより、電力コストが10%下がり、サービス料金に転化されるとすると、サービスの市場規模は1兆円を超えると試算されています。ここにハードウェア・ソフトウェアを加えれば、市場規模はさらに大きくなるでしょう。また、1,000万kWもの分散電源が需要サイドに整備されるとなると、さらに数兆円規模の投資が生まれることになります。
「発電市場は供給過剰になる」と予想しましたが、需要家サイドでの発電投資は大規模集中型の発電事業と同じ次元の競争に巻き込まれることはないでしょう。
なぜなら、需要家は経済的な理由だけで自家発電機を調達するわけではないからです。
たとえば、家庭に燃料電池を入れる場合、相応の回収プランは求めるでしょうが、企業が求める投資回収率とは異なります。
加えて、環境性・セキュリティなど複数の価値観で発電設備を販売することが出来る事が需要サイドの市場の大きな魅力となります。
商品・サービスの企業連携が起こる
需要サイドの市場のもう一つの特徴は、技術やサービスの企業連携が頻発することです。
なぜこのような事態が想定されるかと言うと、需要家には様々な事業者がサービスや商品を供給しているからです。
最近では、需要サイドで複数の技術やサービスが組み合わさって、1つの商品やコンセプトとして結実しつつあります。その結果、例えば、スマートハウスには省エネ設計・太陽電池・燃料電池・HEMSあるいは電気自動車を供給する事業者などが集まっています。同様に、ZEB(Zero Energy Building)には、省エネのビル設計・BEMS・太陽電池・照明・空調などの設備・コジェネレーションなどの事業者が集まります。
スマートシティになれば、ここにインフラを供給する事業者がさらに加わることになります。
各々の事業者は素晴らしい技術やシステムを供給していますが、需要家の側から見えるのは、スマートハウス・ZEBという1つの商品であり、個々の技術や商品の個性は見えにくくなります。
機器やシステムだけではなく、電気やガスのようなエネルギーも1つの商品に組み込まれていくようになるでしょう。
当初はエネルギーに関係する技術やシステムが集まって考えられてきた商品ですが、いろいろな技術を組み合わせた結果、技術自体が個性を持ってしまう、と言う「価値の逆流現象」が起こってしまうのです。
2つの潮流
パッケージされた商品が個性を主張するようになると、2つの流れが出来てきます。
1つは企業間の連携が進む、と言うより「1社単独では効果的なビジネスを展開できなくなる」と言うことです。
成長性の高い需要サイドの市場では、業種の枠を超えた戦略的な提携が必須となります。
そして、もう1つは「企業連携が連鎖する」と言うことです。
たとえば、エネルギーを起点としたシステムが水や生活サービスのシステム、サービスと合体する、と言うことが自然に置きます。「ビルとビル」あるいは「ビルと住宅地」と言う空間的な合従も起こってくるでしょう。需要サイドのビジネスを成長させるためには、枠にとらわれない柔軟な動きが必要になります。
こうした流れは、エネルギーを起点としたビジネスが枠にとらわれずに発展する可能性があることを意味しています。
もともと、電力市場そのものは需要減で縮小傾向にあります。そこで限られたパイを奪い合う構造となったことが10年前の自由化を頓挫させました。自由化の成否はその先にどれだけの成長が見込めるかにかかっています。その意味で、需要サイドの市場がいかに広がるかが持つ意味は重要です。
結果として、エネルギー市場の将来を見極めるためにも、需要サイドの市場の行方は注視していく必要があるのです。