2020年の電力市場を占ってみた時、分散型エネルギーシステムもあるが、ひとまずは発電について考えてみましょう。
発電所の大増設
電力自由化で最も注目が集まるのが発電市場です。IPP、PPSといった事業形態の違いはあれど、発電した電気を販売する市場こそ電力自由化の最も重要なターゲットだからです。
東日本大震災以来、PPSに注目が集まっています。
電力会社への反発、電力会社が電力料金の値上げに踏み切った事などにより、多くの公共団体、民間企業がPPSからの電力の調達を試みました。
しかし、自由化された市場の3%のシェアしかないPPSは、彼らのニーズのほとんどにこたえることが出来ませんでした。
こうした話を聞くと、発電は売り手市場で投資のチャンスのように思えるが、市場を傍観すると違った姿が見えてきます。
原子力発電の復帰
好き嫌いは別として、厳格なルールの下で認められた原子力発電所の可動を許さないとする論理は、これからの日本では通りません。
復帰する規模については流動的ですが、特定の原子力発電所の復帰が一度見止められれば、あとは同じ条件をクリアした発電所が順次復帰することになりますので、中途半端な復帰はむしろ難しいでしょう。
したがって、1、2年以内に厳しい基準をクリアした原子力発電所が復帰し、以降可能なものは順次復帰を遂げ、2020年までには2,000万kW程度の原子力発電所が稼働状態になっていると想定する事が出来ます。
再生可能エネルギーの大量導入
その量は2020年までに2,000万kW程度と想定できますが、中心となる太陽光発電、風力発電の稼働率は各々15%、25%程度と低くなっています。
電力会社の発電設備の稼働率が60%程度であることを考えると、3分の1程度の700万kW分の発電所が増設されるのに等しいことになります。
分散型電源による底上げ
民主党政権下の「革新的エネルギー・環境戦略」で定められた目標から、2030年までに2,500万kWが毎年一定の割合で整備されるとすると、2020年には、1,000万kW程度は分散電源が導入されていると見ていいでしょう。
PPSなどによる発電投資
PPSの中には100万kWの増設を計画しているところもあります。
また、数十万kW規模の発電所を建設して、新規参入する例も見られます。
さらに、東京都のように自治体が大型の発電設備を整備しようとする例もあります。電力システム改革により、今後新たな投資も出てくるでしょう。
これらを合計すると、2020年までに1,000万kW規模の発電設備が増設されると考えていいのではないでしょうか。
以上を合計すると、5,000万kW規模もの増設になります。関西電力を凌ぐ規模の発電容量が上乗せされるのです。
減退する需要
供給力が大幅に増える一方で、電力需要は減少傾向になると予想されます。
経済成長と同じように、これまで政府は右肩上がりの電力需要を想定してきました。
経済成長については、減少するとなると年金をはじめあらゆる社会システムがうまくいかなくなるので、意地でも右肩上がりにしようとするのはわかります。
政府はそのために様々な経済財政政策をとってきたのですが、日本の経済は縮小しました。経済のファダメンタルズを政策で変えるのは容易なことではありません。
一方で、電力について右肩上がりの想定が行われてきたのはなぜなのでしょう。
1つには、「過小な想定をして電力が足りなくなったら大変なことになる」と言うリスクヘッジがあるでしょう。
しかし、家電量販店に行けば、数年前より電力消費が大幅に少なくなった電化製品が並んでいるにもかかわらず、優秀な行政マンが右肩上がりの想定を行うのは他にも理由があるでしょう。
考えられるのは、電力のムラの圧力です。かつて道路族が道路建設の予算獲得のために道路需要を水増しさせてのと同じような試算が電力業界にもあった可能性があります。
もう1つは、インフラ事業関係者に共通する過剰な使命感です。
日本が高度経済成長を果たし世界で最も高度な社会基盤を成形できた背景にインフラ事業関係者の高い使命感があったことは確かです。
反面、そうした使命感が過剰な安全サイドの想定や代替案を寄せ付けない傾向につながったことは否定できません。
しかし、右肩上がりの需要想定は見直しを余儀なくされます。それは、いくつかの理由で、日本の電力需要が今後減少傾向にある事が顕在化するからです。
産業界では、長時間にわたる徹底した省エネで電力需要が頭打ちになって久しいです。
しかも、昨今では、エネルギー消費の中心となってきた製造業の投資が多くの海外に向けられているため、今後は明らかな減少傾向を呈するようになるでしょう。
産業分野に代わって電力需要を押し上げてきたのは、業務・民生分野ですが、ここでも今後は需要が減少傾向になるでしょう。
これまで需要増の要因となってきた、電力消費機器の増加やサイズアップ、あるいはオフィスや住宅の1人当たり床面積の増大、といった規模の拡大による効果がなくなる一方で、設備・機器の省エネ性能は確実に向上し続けるからです。
交通分野では、電気自動車による需要増がありえますが、少なくとも2020年までに顕在化することはないでしょう。
日本総合研究所では、これまでのトレンドに基づいた電力需要の動向を算定しており、2030年には1990年対比10~15%程度電力需要が低下するとされています。
これに、上述した事情と東日本大震災以来の省エネの取り組み効果が加わるのですから、2020年までに「電力需要が10%単位で減るのは間違いない」と考えるべきでしょう。
供給過剰となる発電市場
以上のような需要状況から、2020年頃、日本の電力市場は相当な供給過剰となっている可能性が高いです。
発電所に投資している側にすれば、原子力発電の復帰がないことを祈りたいかもしれませんが、期待値で事業をするのは望ましいとは言えないでしょう。
供給過剰の中で規制が外れ、広域系統運用が行われ限られた需要家に対して販売攻勢を仕掛け合うのが2020年の発電市場の姿なのです。
以前であれば、圧倒的な規模を誇る電力会社が圧倒的な力を発揮したでしょうが、今回はそうとはならないでしょう。
まずは、すでに述べているように10年前の自由化で電力会社の販売競争の資金源となった小口市場が自由化されるので値下げ攻勢を掛けづらくなります。
次に、PPSは新しい発電所が中心であるのに比べて、電力会社は旧式の発電所を抱えながら競争しなくてはなりません。
同様に、かつて電力会社をコスト面でささえた原子力発電を頼りにすることが出来なくなります。
逆に、新たな安全基準でコストや人材の面で思いもよらぬ重荷になる可能性も否定できません。
もう1つ言えるのは、需要家サービスでは電力会社が優れているわけではない、と言うことです。
大口の産業電力に対する販売様相は経済性が中心のシンプルな構造をしていますが、小口分野ではいろいろなニーズに応えるための柔軟性が問われます。
電力会社は、送配電網と多くの発電所、多くの契約者を抱える分だけ柔軟性では劣らざるを得ません。
とは言っても、全てのPPSが有利になるわけでもありません。
発電ビジネスでは、発電効率にしても販売効率にしても一定の規模のメリットが働くことは間違いありませんし、ある程度の共有能力が無ければ需要家のニーズに応えられないからです。
結果として、電力自由化が始まって4年断った2020年に発電市場で有利になるのは、「10年前の自由化からしっかりと事業基盤を築いてきたPPS」と言うことになるでしょう。
注目される小口市場
市場として重視すべきなのは家庭を中心とした小口市場になります。
現状、kW当たり24円と言う割高の単価の市場には、余剰利益といろいろな提案ができる可能性が潜んでいます。
問題は、「小口の契約をどうやってひとまとまりの需要にできるか」です。
一軒一軒足を運んで地道に実績を積み上げる戦略は否定できませんが、より効率的に市場尾開拓するためにはアライアンス戦略が必要になります。
例えば、マンションではすでに高圧一括受電サービスが浮遊しています。同様に管理組合など一括して話が出来る窓口があります。
また、住宅市場全体との比較で見てもマンションの需要は根強いです。
こうした理由から、小口の自由化ではマンション市場が事業拡大のための重要な市場になるでしょう。
ここを拠点に小口向けのサービスを立ち上げ、戸建住宅の市場に浸透してく、と言う戦略を展開することを想定できます。この点ついては、需要家サービスの市場との連動が重要かつ必須となるでしょう。