核分裂によって発生する熱を利用して発電を行うのが原子力発電です。
ウランなどの原子核が核分裂を起こすときに発生する大きな熱エネルギーで蒸気をつくってタービンを回すと言う点では、重油などをボイラで燃やす火力発電のしくみと似ています。
原子炉
天然に産出するウランは、99.3%のウラン238と0.7%のウラン235からできています。
ウラン238は大きなエネルギーをもつ中性子を衝突させなければ核分裂しないのに対し、ウラン235はどんなエネルギーの中性子を当てても核分裂を起こします。
たとえば1グラムのウラン235をすべて核分裂させると、約20万キロカロリーのエネルギーが放出され、これは家庭で使う1ヵ月の電力量を300kWh とすると、これは76ヵ月分に相当します。
原子力発電では、天然ウランからウラン235だけを取り出して、大きな塊にしたものを燃料として使います。
そしていったん核反応を起こすと、塊が大きいため中でつくられた中性子が外へ逃げ出せずに、次々と連鎖反応を起こすのです。このように、ある一定の割合で核分裂を持続させることのできるウランの塊を臨界量といいます。
そして臨界量のウラン燃料から持続的なエネルギーを取り出せるようにした施設が原子炉です。
様々な原子炉
原子炉にはいろいろな種類がありますが、現在世界で最も多い型式は「軽水炉」と呼ばれるもので、日本の原子炉もこの型式です。
軽水(普通の水)といわれるとおり、新たに発生した中性子の速度を下げて次の核分裂を起こしやすい状態にするために使う「減速材」や、発生した熱を取り出すための「冷却材」として普通の水を使います。
また、原子炉には、炉心の中で蒸気を発生させる「沸騰水形原子炉」と、炉心で発生した高温高圧蒸気を蒸気発生器に送って別系統を流れる水を蒸気にする「加圧水形原子炉」があります。
前者は東日本の電力会社で多く採用されていて、後者は西日本の電力会社で多く採用されています。
制御システム
原子炉の中で起こる核分裂が臨界量を超えてしまうと、核分裂が爆発的に進んでしまい危険です(この爆発的な状態を利用するのが原子爆弾です)。
そこで、原子炉の中に中性子を吸収しやすい物質を差し込んで、核分裂をゆっくり進行させる制御システムが設けられています。これが制御棒です。
制御棒は、カドミウム、ホウ素、ハフニウムなどの混合物をアルミニウムで被覆したステンレスで覆ったものです。
原子炉に使われる核燃料の原料は、天然のウランを濃縮・加工した二酸化ウランの粉末です。これを1,700℃以上の温度で固めて小指の先ほどの小片(ペレット)にします(ペレット1個で家庭の電力量約半年分のエネルギーが得られます)。
このペレットをジルコニウム合金でできた管にたくさん入れ、1本の燃料棒にします。そしてさらにこの燃料棒と制御棒を何本も組み込んで、燃料集合体というものを組み立てます。
原子炉の中で、この燃料集合体の中の制御棒を引き抜いていくと、核分裂の連鎖反応が起こり、中性子がウラン235に吸収されて熱エネルギーが放出されます。
核分裂により中性子が新たに発生しますが、1個を次の核分裂のためのウラン235の原子核に吸収させ、残りの中性子を制御棒に吸収させるようにすれば中性子の数は一定に保たれます。
つまり、時間が経過しても、核分裂の連鎖反応を臨界状態(一定の状態)にすることができます。
もしも、それ以上の数の中性子をウラン235に吸収させてしまうと、核分裂が増え過ぎてしまって原子力発電所の発電電力が上がりすぎてしまいますし、中性子の吸収数が足りない場合は、発電電力が低下してしまいます。
このように、制御棒を上げ下げして臨界状態を調節しながら発電電力を一定に保っています。
プルサーマル発電
軽水炉で用いる核燃料のウラン235は、使っていくとそのうち連鎖反応が起こらなくなるので、使用済み燃料として原子炉から取り出されます。
しかし使用済み燃料の中には、まだ1%のウラン235とともにプルトニウムや核分裂でできた生成物が含まれています。
この燃え残ったウラン235や新たに生じたプルトニウムは、再処理工場で化学的に処理されて再び燃料として軽水炉で使用されます。
このような燃料の循環を「核燃料サイクル」といいます。核燃料サイクルは理論的には燃料を何回も繰り返し利用できるということになるので、エネルギーの96%を輸入に頼っている日本にとっては、リサイクルによってつくられるウランとプルトニウムは「準国産エネルギー」ともなるありがたい資源になるわけで
す。
使用済みの燃料に含まれるプルトニウムを取り出して、天然ウランに混ぜて新しくつくった核燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料=MOX:Metal Oxide燃料)を再び軽水炉の発電設備で使うことを、プルサーマル発電といいます。
プルサーマルは「プルトニウム」と熱中性子炉の「サーマルリアクタ」の合成語です。
メリットの大きいプルサーマル発電ですが、じつは、何度もサイクルを繰り返すと核分裂しない物質が増えてしまい、事実上は何回ものサイクルはできなくなります。
そこで、次の時代を担う「夢の原子炉」として期待を集め、各国で研究開発が進められてきた原子炉が「高速増殖炉」です。
原理は十分に解明されているのですが、財政的にも、技術的にも困難な課題をもっている原子炉でもあります。
夢の原子炉「高速増殖炉」
天然ウランの中で、核分裂しやすいウラン235はわずか0.7%しか含まれていません。
軽水炉ではこのウラン235しか使えないわけですから、資源的に見ても世界が現在の発電容量を継続するならば、21世紀半ばには使い尽くすと予想されています。そこで注目されているのが「高速増殖炉」です。
高速増殖炉は、天然に大量に存在する燃えにくいウラン238まで燃料として燃やそうという原子炉です。
ウラン238に中性子を当てると、核分裂しやすいプルトニウム239に変わるという性質をもっています。また、ウラン235やプルトニウム239に中性子が当たって核分裂するとき、当たる中性子の速度が速いほど新しく飛び出す中性子の数が多くなり、その増えた中性子でウラン238の核分裂を促進できます。
この2つの性質をうまく使えば、消費される燃料よりも多くの燃料を生み出すことができるのです。
現在の軽水炉でもウラン235からプルトニウム239がつくられていますが、中性子の速度が遅いため、消費される燃料(ウラン235)と新しく生み出される燃料(プルトニウム239)の割合は1より小さいのです。
したがって燃料は増えることはありません。これに対し、高速増殖炉では、速い速度の中性子で核分裂を起こすので、核分裂によって発生させる中性子の数を多くすることができます。
また、冷却材には水に比べて中性子の吸収が少ないナトリウムを使うので、無駄になる中性子の数が減ります。
その結果、ウラン238からプルトニウム239に変わる割合が1.3倍ほどに増やせるので、消費するよりも多い燃料(プルトニウム239)を生み出してくれるのです。
冷却材に使われるナトリウムは、熱を伝えやすく、比重も小さく(0,97で水より小さい)沸騰点も高いことから冷却材としては非常に優れた性質です。
高速増殖炉は、当初フランスが最も開発が進み(1994年)、イギリス、ドイツなど欧米諸国も早い時期から積極的に開発を進めてきています。
日本では「もんじゅ」と名付けられた炉が1994年に98万キロワットの電力を送り出しましたが、翌年にナトリウム漏れの事故があり、原子炉を停止しました。
以来、本書のまだ停止している状態にありますが、将来、日本の技術が壁を破って成功に導くことが期待されています。