ドイツに見るコミュニティ・エネルギー事業
2000年のFIT制度開始以降、安定して再生可能エネルギーの導入量が拡大しているドイツですが、再生可能エネルギー発電設備の所有者の約4割は「個人」となっています。
次に多いのが「事業発案者」の15%弱ですが、地域の中小企業や市民の出資による企業であることも多くなっています。さらに「農家」や市民ファンドを中心とする「ファンド・銀行」もそれぞれ1割強を占めています。
一方で、電力会社の保有は8%に過ぎません。
このように、ドイツでは再生可能エネルギー設備の多くが、地域の住民や事業者によって所有されています。
「再生可能エネルギー普及のカギは地域エネルギー事業にある」と言ってもいい状況です。
様々な地域エネルギー事業
その1つが協同組合です。
ドイツでは、19世紀以来「協同組合」と呼ばれる法人形態が存在しています。協同組合の基本的な意義は、出資者が互いに助け合いながら、生活に必要なサービスを確保するとともに、地域の産業を活性化することにあります。設立は3人から可能となっており、組合員数には制限はありませんが、組合員になるには地域住民であると同時に組合への出資が求められます。
組合員は組合の所有者であると同時に受益者でもあるのです。自立を重んじるドイツのコミュニティの考え方を反映した制度と言えます。
その中で、近年増加しているのは
「エネルギー協同組合」
です。
現存のエネルギー協同組合が手掛ける事業の約60%は再生可能エネルギー発電です。
再生可能エネルギー発電のうち4分の3を占めるのが太陽光発電であり、残りの4分の1がバイオマス・風力・水力となっています。一方、コジェネレーションによるエネルギー事業の割合は14%にとどまっているが、今後の伸び率が期待される部分でもあります。
協同組合とシュタットベルケが地域事業の双璧
協同組合と並んでエネルギー事業の重要な担い手となっているのがシュタットベルケ(自治体公社)です。
シュタットベルケは、もともと電力、ガス、廃棄物処理、水道と言った公益サービスを担ってきました。マンハイム市のシュタットベルケ:MVVは、従来から営んできたガス事業・廃棄物事業を事業基盤として、風力発電やバイオマスなどを組み合わせた複合的な分散型エネルギーシステムを立ち上げました。
このように、地域の公営企業が従来の事業を基盤に再生可能エネルギー事業を手掛けることで地域とのつながりを強めています。
地域住民発意の電力会社
ドイツ南部シュバルツバルドのシューナウ電力は、チェルノブイリ原発の事故のあと、住民による地域電力会社として誕生しました。
「再生可能エネルギー主体の街を作ろう」と言う住民主導の試みをFITが下支えした形です。
同社は、大手電力会社から配電網を買い取り、地域に再生可能エネルギー中心の電力を供給します。市民は小型の発電機を所有して、地域の電力会社と連携する形で地域のエネルギーシステムづくりに参加しています。
1,700世帯の住民に対する電力供給から始まった事業は、今ではドイツ国内に10万世帯を超える顧客を抱えている前に成長しています。
シューナウ電力と同じような市民出資の電力会社の枠組みは他の地域へも広がっています。首都ベルリンでも、市と大手電力会社ヴァッテンファルとの電力供給契約が切れるのを機に新たな地域電力会社を設立しようと言う動きが出てきています。
自治体が主体となり、地域のために電力を確保しようとする流れがドイツ全土に広がりつつあるのです。
こうしたドイツの地域の取り組みを支えたのは、住民自ら地域事業に取り込もうと言う高いコミュニティ意識とFIT制度です。大企業や金融機関による投資だけがドイツの再生可能エネルギー普及の主役ではないことに注目していきたいところです。