東日本大震災直前の2010年に発表された「エネルギー基本計画」では、『原子力発電による電力の比率を50%以上にする』と言う方針を掲げていました。
なぜ、原子力発電はこのような位置付けとされたのでしょうか。
原子力発電の位置づけ
それまで謳われていた原子力発電の安全性は、巨大地震や電源停止など都合の悪い条件を排除した条件下でのみ当てはまる、作られた神話でしかありませんでした。
そもそも、原子力発電所は周囲の人口が極めて少なく、地層的にも安定した地域に建築することとされています。
日本でこの条件に当てはまる土地を探すとなると岩盤の安定した離島くらいにしか建設できないことになりかねません。
そこで、『事故の起こらないようなしっかりした原子力発電所の建設』を掲げることで立地条件を広めることが出来たのです。
逆に言えば、「日本の原子力発電所も壊れる可能性がある」と言うと立地地域の同意を得ることは出来なかったでしょう。
ゆがんだガバナンス
どんな産業でも、認められた範囲内でのロビー活動を行い、自分たちに不利にならないように政策サイドへの働きかけをします。
それは電力業界においても同様です。しかし、政策により独占されている電力業界は一般産業と同等の立場にあるとは言えないでしょう。
また電力の「中立的な規制」の運用方法について議論が交わされたことがない、と言うことからも、電力業界とその他の産業との立場の違いがうかがえます。
『被規制業界』と『規制』を同じ組織に運営させない、というのが市場経済の基本的な考え方です。
ところが、電力業界においては、原子力を推進する立場の経済産業省の傘下に原子力安全委員会があると言うようなガバナンス構造でした。
こちらについても、特殊な立場にある電力業界だからこその構造だったと言えるでしょう。
このような要因は、安全性を重視すべき電子力発電を、いつの間にか電力の経済性向上の手段へと解釈を捻じ曲げていきました。
ガバナンス改革の行方
現在、原子力安全委員会、原子力安全・保安院の体制が解体され、経済産業省とは対極にある環境省の外局に原子力規制庁を置くとともに、国家行政組織法第3条に基づく原子力規制委員会を設置し、同委員会に原子力発電の安全性に関わる判断を委ねるとされています。
しかし、このような対応だけで長らく続いた原子力発電のガバナンスを改革できるとは言いがたいでしょう。
体制が変わっても、規制に対し圧力をかける方法は多数あります。非公式な圧力を防ぐためにも、電力や原子力改革に関わる各種委員会や原子力規制委員会の中立性をいかに維持するかが重要になります。
原子力規制委員会骨抜きのリスク
政府は「原子力発電は安全性を何よりも優先する」、「原子力規制委員会の判断を最優先する」と言う方針を主張しています。
この主張を踏まえると、原子力発電のガバナンスが機能するために不可欠なのは、
「原子力規制委員会が安全性を最優先し、圧力や利益に擦り寄ることなく、専門家としての正義を貫き続けること」だと言えます。
そのためには政府が規制委員会の立場を守る姿勢を示すことが必要となります。
また、安全を第一とする中立的な組織を維持できる人材の確保も当然重要となってきます。