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2020年 発電市場の動向 ~送配電~

送配電の視点から、2020年の発電市場の動向を考えていきたいと思います。

狙い目はスマート投資と広域投資

今後、電力需要が減退すると考えた場合、日本では供給力を大きくするための送配電網への投資は行われません。

一方で、日本の送電網には以下のように欠けている機能があります。

 

再生可能エネルギーや分散電源を接続するための機能

日本中で太陽光発電、風力発電などを増設し電力系統につなげるには、再生可能エネルギーの変動を吸収するための機能を増強しなくてはなりません。

また、コジェネレーションを大幅に増設するためには、電力が不足した場合のバックアップや、必要以上に発達した場合の受け入れのための機能が必要になります。

こうした再生可能エネルギーや分散電源の接続を容易にするためには、広域での送配電網や制御システムの強化を行わなくてはなりません。

 

再生可能エネルギーの電力を需要地に送るための機能

日本に限らず再生可能エネルギーが豊富に賦存している地域と需要が旺盛な地域は異なるのが普通です。

海外でも、ドイツでは風力資源が豊富な北部から南部への送電、中国では内モンゴルからの沿岸部への送電のための投資が課題となっています。

日本で言えば、電力の最大需要は東京にあって、風力資源は需要が小さな北海道東部に豊富な賦存します。

こうした再生エネルギーの賦存地と需要地のギャップを埋めるためには、いくつかの投資が必要になります。

まずは、軽油地域での送電、受電を乱さないように電力を送り届けるための機能です。電力会社の管内で強化すべき機能と言えます。

次に言えるのは、例えば北海道電力から東北電力管内を通って、東京まで電力を運ぶような、電力会社の管内をまたぐ送電機能です。ここに関しては、新しく設立される広域系統機関がつかさどるべき投資と言えます。

 

広域系統運用を可能とするための機能

今回の電力システム改革の目玉と言える機能です。

ハード面では上述した電力会社間の連絡船の強化が必要となりますが、ソフト面でも電力会社の管内を越えた広域の需要のバランスを取るためのシステムや広域運用と電力会社と連携するためのシステムや体制を構築しなければなりません。

また、電力会社間あるいは電力会社の管内を越えた発電事業者の競争を促すためには、広域での需給状況を事業者がわかるようにするための機能も必要となるでしょう。

EUでは広域の運用機関と各国の電力会社の系統運用がうまく連携することで、国境を越えた超広域の電力のやり取りが可能となりました。

 需要家同士の効率的なやり取りを可能とするための機能

日本の電量システム改革は欧米に比べて周回遅れであり、日本が世界に先んじるためには需要家同士の横の自由化を推進する必要があります。

例えば、住宅の太陽電池が発電した電力を高圧線に吸い上げてから再び低圧、中圧の送配電網内で融通できるようにした方が効率的であり、ヨコの自由化のための送配電機能の強化も欠かせません。

 公共化する市場

電力需要の増大に対応するための投資はないものの、上述したスマート化、機能向上のための送配電網の投資規模は相当に大きなものとなります。

たとえば、北海道の豊富な風力由来の電力を東京に運ぶための機能強化だけでも兆円単位になると言われており、既存の電力会社管内の間を結ぶ連絡船を整備するためには、各所で1,000億円単位の投資が必要とされます。

日本中の投資を合わせれば数兆円もの市場となるでしょう。しかも、発電市場の投資が競争にさらされる発電会社相手なのに比べて、送配電の取引は運営が安定している送配電会社が顧客となります。

これまで世界中で行われてきた電力自由化は、発電を競争的な市場とする一方で、送配電網をだれもが公平かつ自由に使える公道とするものです。

日本の電力システム改革のプランも同様の構造をしています。

公道となった送配電網は、公平で透明性の高い公的な性格の強いインフラとなる一方で、競争相手のいない独占事業者が生まれてしまいます。

こうした構造の下では、公道を整備・運営するために必要な費用を構造の利用者に負担してもらうことになります。

そのプロセスをいかに透明にしようと、競争のない事業環境下で発生したコストを配分することになります。

独占性のある公的な性格の事業を公正に運用するための方法は、公共部門でおおむね確立されています。

まず、競争が無いので料金の正当性はかかったコストが正当であるかどうかを精査するしかありません。総括原価方式と同様の仕組みが送配電部分には残らざるを得ないことになるでしょう。

そのうえで、コストが正当であることを証明するために一般的に用いられるのが、できるだけ多くの調達を競争環境の下で行わせることです。

東電の経営改革の議論の中では競争調達の比率がわずか15%ほどだったことが明らかになりました。このことは、日本の電力事業では、独占事業を管理するための基本的なルールが存在しなかったことを意味しています。

それでも独占化する市場

こうした公的な性格を持った独占的な市場では、送配電会社が行う競争調達の中で競争力のある事業者がシェアを高めると考えるのが普通です。

しかし、おそらくそうはならないでしょう。公的かつ独占的な事業の傘下で行われる競争調達は、十分な数の応札者がいることを前提として機能するものだからです。

送配電事業を手掛けられる企業の数は発電市場よりはるかに少なくなります。

たとえば、投資の中心となる送配電網運用のためのシステムの構築を経験したことのある企業は限られてきます。欧米でもわずかな事業者のみが関わっている事業になります。

それはハードウェアについても同様のことが言えます。東電改革の競争調達の目標が一般企業の常識よりはるかに低いものとなった裏には、こうした事情もあるのです。

結果として、送配電市場は「送配電会社による調達競争の下で限られた企業同士が競争する市場」となります。

こうしたお互いの顔が見え、企業の数が限られた公的な市場で本気の競争が繰り広げられたためしはありません。

双方が自らの立場に満足してしまえば、あえて厳しい競争に挑むことのメリットがないからです。

競争が働かない独占市場のコストを精査することは非常に難しいです。

これまでも電力会社のコストを政府が管理しようとしてきましたが、情報量ではるかに上回る事業者の見積もりを官僚が精査することはできなかったでしょう。

独占的な市場を本気で管理しようとするのであれば、今からコスト精査をするための人材育成、情報データベース、海外機関との連携などに取り組まなくてはいけません。

それでも独占的な事業者を締め上げるのは難しいでしょう。

事業者の側から見れば、ひとたび地位を確保すれば安定した事業が行えるスマート化のための投資が中心となれば、魅力のある市場と言えるのではないでしょうか。

注目の東日本ネットワーク

ここまで述べた送配電市場が出来るためには、やはり電力システム改革が円滑に実行されることが望ましいです。

しかし、前述したように電力会社の抵抗が強いので、例えば「発送電の法的分離は見送り、小売り自由化や広域運用は実施する」と言った痛み分けに落ち着く可能性は否定できません。

その場合、広域系統運用が機能すれば、結果として送配電網の運営のみを外部化する機能分離のような送配電運営が行われることになります。

 

一方、東京電力管内では実質的な法的分離を含めた電力自由化が実現する可能性が高くなります。

そこで注目したいのが「東日本でどれだけ次世代型の送電網が出来上がるか」です。

なぜなら、送配電網の再整備の環境については、東日本と西日本では大きな違いがあるからです。

まず、西日本には東電改革のような自由化推進のためのドライビングフォースがありません。

同時に政府の主導権も小さくなります。

次に東日本に比べると電力需要の多寡や電力会社の力の差が小さいので同意形成の軸を作りにくくなっています。

さらに、北海道東部の豊富な風力資源と東京の膨大な電力需要のような需要地と再生可能エネルギー賦存地域のギャップも小さいです。

結果として、チャレンジングではあるものの、東日本地域のほうがスマートで公的な性格の送電網を作るためのモチベーションが強くなるのではないでしょうか。

 

 

日本では電力自由化が全国をひとくくりで議論されていますが、日本ほどの経済規模、地域特性の違いがあれば、自由化の進度に差が出ても仕方がない、と言う考え方もあります。

電力事業の構造が日本とは全く違いますが、アメリカでは電力事業の制度も自由化の度合いも地域によって大きく異なります。

それでも特別な事故を除けば、アメリカで電力システムが社会的に大きな問題になっているというような事もありません。そういった意味でも、日本の送配電網改革では東日本にどのようなネットワークが出きるのかが重要となってきます。