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総合エネルギー事業者という新しい事業者形態

総合エネルギー事業者

総合エネルギー事業とは

電力自由化が現実味を帯びてから、総合エネルギー事業者と言う表現が多く使用されるようになっています。総合エネルギー事業と聞くと「電力、ガス、石油などエネルギーの種類で区切られていたエネルギー関連企業が、企業統合や新たな領域への進出によって複数のエネルギーを扱うようになる」と言う意味合いが連想できます。実際、電力の自由化が進む欧米では、日本では見られないダイナミックな事業統合や買収、総合エネルギー化が進んでいます。

例えば、ドイツの代表的なエネルギー会社であるE.ON、RWEは、電力や天然ガスの供給を主たる事業としていますが、エネルギービジネスの上流である資源開発にも進出しています。

また、イギリスのBritishガスやフランスのガス公社(GDFスエズ)も電力ビジネスへ参入しています。他国と比較して、石油会社が大きな力を持つアメリカでも、総合エネルギー化が進んでいます。

 

海外で生まれた総合エネルギー事業者は強力な体力を持っているため、規制に守られた日本企業が同じ市場で互角に戦うことは苦しいでしょう。国としてのエネルギーセキュリティーを考えても、グローバルな競争力のある事業者の存在は重要です。そうであれば、電力の自由化が目前に迫った日本でも総合エネルギー事業者を目指す企業が何社も出てくるようにならないといけません。しかし、やみくもに企業買収を仕掛けたり、新事業領域に進出したりすればいいというものでもありません。

総合エネルギー事業者とは、事業者を拘束していた障害の撤廃やエネルギー供給構造・市場構造の転機などに合理的に対応することの結果として出現する事業形態だからです。

 

自由化による垣根の撤廃

総合エネルギー事業者が生まれる第一の理由は自由化です。どこの国でも電力事業は規制業種であるか国営事業でした。そこで規制が撤廃されると2つの方向で事業者の統合や新規参入が進むようになります。

 

1つは、電力事業者間の統合です。

日本は北海道から沖縄までを10の地域に分け、電力会社が独占的に事業を行ってきました。しかし、こうした地域分割は経済的な理由で行われていたわけではないため、自由化後に電力会社が経済合理的に行動すれば、地域の線引きは変わることになって当然です。

 

もう1つは、他業種からの参入です。

自由化によって送配電事業は公的な事業になりますが、発電事業は自由市場でのフェアな競争にさらされます。

企業体力で見た場合、今でも発電事業者での実績がある、ガス・石油・素材産業・商社などに対して、全ての電力会社が上回っているわけではありません。また、技術力はエンジニアリング会社への委託を前提とすれば大きな差がなくなり、コスト競争力については自由な市場で鍛えられた分だけ新規参入者に分があります。自由化は発電事業者としてのヒエラルキーを大きく変える転換点でもあります。

 

日本では電力会社が実力以上の影響力を持ってきました。しかし、電力会社の売り上げは最大の東京電力でも5兆円程度で地方電力となると数千億円にとどまっています。

それにも拘わらず電力会社が影響力を持ってきたのにはいくつかの理由があります。

 

1つ目は、規制業種であることです。

日本人には国に認められた特権に対するある種の信望や幻想が存在します。

2つ目は、調達力です。

エンジニアリング、建設、機械、電機などの業界から巨額の調達を行ってきたことで発注者としての影響力を高めました。

3つ目は、省庁や政治による後押しです。

今回、大胆な自由化の方向性が決まってもなお、地域独占、垂直統合型の日本の電力会社の仕組みを支持する政治家や行政マンがいます。海外でどんなに発送電分離が進んでも、彼らはこれまでの日本の電力事業を信じてやまないのです。

4つ目は、歴史的な経緯です。

戦後の荒廃から高度成長まで、電力会社は各地域で突出した経済力を持っており、地域振興にも貢献しました。そうした過程の中で、電力会社には公共機関にも似た公正、中立的なイメージが根付いてきたのです。